藤森栄一著 「古道」(こどう)

kodou

講談社学術文庫 920円

古代日本人がたどった
かもしかみちをさぐる

-SP-この本は何のインパクトもない普通の題名でもあり、雪も降るし仕事も暇なので鯖江の図書館を尋ねて何気なく手にした本であ る。著者紹介によると著者は1911年長野県諏訪市に生まれ1929年諏訪中学卒業。その後多くの職業に従事する傍ら考古学研究を続ける。1973年没と のこと。私はこのまえから越前市横根の山道を横切る「けものみち」が気になっていたのでこの本を読んでみようと思ったのかもしれない。

-SP-私は色々能書きを言う割には浅学でもあり著者も書かれた内容に関しても初めて目にする分野であった。いままで宮本常一や梅原猛、網野義彦をテキストにし て古代を旅してきたが私の全く見知らぬところにもう一人の時代の哲学者が存在していたことに驚かされた。氏曰く「海を渡って行ってしまった人々。帰って来 なかった人々にも、それからの長い人生の旅があった。それは、海を渡って来た人々と一緒で、やっぱり消えてしまったのである。……自由を持った人の郷愁な どというものは本物ではない。かの生口(せいこう)たちの旅愁はいかばかりであったかと、察せられる。(生口とは古代貢物として倭国から大陸の諸国に送ら れた奴婢)

-SP-藤森栄一について多くを語らなければという気持ちが私にはあるが皆さんもこの本を一度手に取って読んでみてください。藤森氏は途方もない時間と距離を歩 いているが、その研究の対象に飲み込まれない市井の哲学のようなものを秘めた著作である。少年時代を過ごした長野県諏訪あたりの須恵器のかけらや黒曜石の 矢じりなどを手掛かりに「けものみち」に分け入り、そこからけものを追う古代狩猟民族の古道を検索してゆく、その思考の方法が興味深く示唆に富み、近年私 が読んだ本の中では傑出した内容であった。